98/11/8
99/2/1 追加

 決して忘れられない事


先日、もらった手紙を整理していて一通の手紙を見つけました。

くわずる先生、

先週は一年生の時の宿題とおやさいお手紙どうもありがとうございました。迎えに行って最初に言ったことは、
「今日 くわずる先生の所に行ったら先生がハグしてくれたよ!」でした!Tはとっても喜んでいました。(以下略)

以前の私の生徒、Tくんのお母さんからの手紙でした。

忘れられない出来事があります。

忘れてはいけない事だと思っています。

だから、書き記しておこうと思います。

私は、補習校で小学生を教えています。補習校というのは、アメリカで現地校に通う日本人や日本語を話す両親を持つ子供達の為に、日本に帰っても困らないように・・と、週に一回土曜日にある学校です。アメリカの現地の小学校の校舎をかりて、国語・算数などを中心に日本と同じ教科書を使って学習しています。生徒は小学一年生から高校生までが通っています。(詳しくはここを参照)

私はこの時、一年生の担任をしていたのですが、生徒の一人Tくんが三学期から学校に来なくなりました。

「風邪」と言う連絡があり、最初は「来週くるだろう」と思って、それほど気にも留めませんでした。けれど、二週間目、三週間目もお休み。さすがに「風邪にしては長すぎるお休みだなあ。登校拒否?何か嫌な事があるのかな?」と、心配になってきました。お家からの連絡は、「風邪がなかなか良くならなくて・・」と言っていたので、心配はしても、それ以上は聞ませんでした・・

でも、後になって、お母さんから、「病院に行くと、先生が骨髄検査が必要・・とか・・」と聞きました。と、この話(お母さんから聞いた症状と検査の話)をダンナにすると「白血病だよ。*」と言われビックリ仰天!ダンナは血液を専門の内科医でアメリカでは血液の研究をしているのです。彼が症状を聞いてすぐさまそのセリフが出てくると言うことは、やはり白血病なのか・・。その後は、私は泣きそうになりながら彼を質問責めにしてしまいました。(*もちろん、病気を決定するの検査をして確定するのですが、この場合は最も疑わしいという事)

日本人の一般的な小児の白血病は、70〜95%が治療をして良くなる事を知って、少しは気持ちが楽になったけれど、、、ただ、その時点ではTくんのお家からは「まだ、検査の結果がハッキリしないので」と言われたので「白血病」の事は、その子に親にも誰にも口にしないようにしました。

けれど、数週間後にTくんのお母さんから「白血病と言われました。」と報告がありました。一応覚悟はしていたので、冷静に受けとめる事ができましたが、ご両親の気持ちを思うと胸が痛くなりました。Tくんのご両親宛には、白血病は、治る病気であること。ダンナが血液専門の内科医であること、もし何か知識として知りたいことがあれば説明してあげられるから・・とすぐさま手紙を書きました。

病院に通うTくんのご両親のために、同級生のお母さん達が団結して差し入れをしたり励ましてあげたりしている、という話を聞きました。同じ子供をもつ親としてTくんのお母さんだけでなく、他の子のお母さん達にとってもつらいことだったと思います。でも、やはりTくんの両親の苦労は精神的にも肉体的にも相当、大変なものだと思います。

白血病という病気は、よく血液のガンと言われています。正常な白血球の数というのがありますが、白血病の場合は、その白血球が異常に増殖してしまう病気です。原因については、ハッキリわかっていません。型については、増殖している白血球の型や大きさなどで分類されています。

白血病の治療は、抗ガン剤でガン化して増殖している白血球細胞を殺して行く治療をします。ただ、その際に正常な白血球の数自体がかなり減り、体がきつくなったり・・・と患者も大変つらい思いをします。全体的な白血球の数は減るけれど、正常な白血球はまた徐々に増えていきます。白血病というのは、昔は難しい病気だったけれど、今は次々に新しい治療法、例えば臍帯血移植など(赤ちゃんの臍の緒から取れる血液を輸血する方法)や、薬も研究されているので、今では完治する可能性の方がとても高い病気になりました。

しばらくして、Tくんの治療が始まりました。

学校では他の子供達が「どうしてTくんはお休みしてるの?」と毎週の様に聞いて来ました。「白血病」という病名がわかると、お母さんから聞いてきたのか、「Tくん死んじゃうの?とか「うつるの?」という質問があがってきました。子供達は、Tくんの事を心配している様子で、それぞれにお手紙を出したりしているようでした。Tくんから、クラスのお友達宛に自筆のお手紙が来ました。そこで、その手紙を配布するときに、白血病という病気をきちんと詳しく説明をしてあげる事にしました。


「人の体の中には、道路みたいに道があって血が流れています。

指を切ったりすると赤いのが出てくるよね? 血の中には、目に見えない、つぶつぶがいっぱいあってね、その中には赤血球と呼ばれる赤いつぶつぶと白血球と呼ばれる白いつぶつぶがあります。そのつぶつぶが、それぞれ体のあちこちに食べ物からの栄養を運んだり、悪いバイ菌をやっつけたりしています。

でもね、「白血病」というのはね、白いつぶつぶがたくさん増えてしまって、カラダにイタズラしちゃうんだよ。そのつぶつぶが増えすぎると、体が疲れたり熱が出たりして良くないから、苦いお薬を飲んだり注射をしたりして、治療が必要なの。「白血病」はきちんと治療すると、きちんと良くなります。それに、この病気はうつる病気ではないからね。みんなで頑張っているTくんを応援してあげようね。」

顔のついた血球の絵を描いて説明しました。


教室の中はしん・・と静まりかえっていました。

子供達は、今までになく真剣に聞いていました。

どの程度理解出来たのかはわからないけれど、きちんと受けとめてくれただろうと思います。私は日本にいる頃、検査技師をしていました。こういう知識がこういう形で役に立つとは思いませんでしたが、子供達も「なんだかよくわからない病気」から「白血病という病気」とわかってくれたと思っています。

Tくんは三学期のあいだ、学校に来ることは出来ませんでした。早く元気になって欲しいと思い、みんなで鶴を折りました。時折、お母さんにTくんの様子を聞くと「頑張っている姿に、涙が出そうになります。」「お友達の元気な姿をみると、どうしてTだけ・・と思います。」と言う言葉に胸がつまされる思いでした。私にとっても一人一人の生徒の事は、とても大事に思っているから、一人でも病気なると心配だしつらいです。でも、お母さんにしてみると、くらべようが無いくらい、つらい事だろうと思います。早く良くなって欲しい・・・そういう思いで一杯でした。三学期の終わりに、少しだけ顔をだしに学校に来てくれました。とてもきつそうでしたが、ニコニコしていました。三ヶ月見ない間に、すこし背が伸びてお兄ちゃんになっていました。

新学期が始まり、一年生は二年生になって、私は新しいクラスの担任になりました。以前の生徒たちが、私を慕って休み時間には顔を見せに来ていました。

ある日、Tくんが姿を見せました!

私は、思わず抱きしめていました。授業に出られる様になったんだね。良かったね・・。涙ぐんでしまいました。

上記の手紙は、その後、お母さんから貰ったものです。私の宝物です。その後、Tくんは日本に帰国しましたが、専門の子供病院で治療をしながら病院内にある学校に通っているそうです。抗ガン剤の影響で髪の毛が抜けても、笑顔で頑張っているというお手紙を貰いました。頑張って欲しい。早く元気になって欲しい・・と願っています。

また、ある時テレビを見ていると、テレビ番組で小学生で白血病になってしまった女の子が、無事に治って結婚・妊娠をしているという話が出てきました。全国にはいや世界中には、いまこの瞬間にも、病気と戦っている子供達がいるのです。

この子達だけでなく、白血病になってしまったお子さんを持つご両親や、お友達が白血病になってしまった子のご父兄や先生へ私から言えることは、病気のことは隠したりごまかしたりしないで、きちんと話してあげて欲しいと思います。子供は小さくても、きちんとお話してあげると、きちんと受けとめてくれます。

病気を持つ子供に対して、正しい理解周りのサポートはとても大事だと思っています。


後日談:

このページを立ちあげてから、様々な方に御意見やご感想を頂きました。その中で、同じ様な状況に居るお子さんを持つご両親や、白血病と闘う方たちからも御意見を頂きました。参考になるサイトをご紹介させていただきます。

白血病・・・まけないもんね。

琴絵ちゃん(発病時・五歳)のパパのサイトです。メーリングリストもあり、白血病全般・闘病記・骨髄移植などへのリンクが充実しています。


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